語りたいだけの前置き
突然ですが、ウルトラマンAを見ました。
僕は平成生まれて完全に平成三部作世代、もっと言えばバリバリのティガ世代であるのですが、父が録画していたウルトラマン(初代)のビデオの影響からか、「ウルトラマンと言ったら昭和(マンとセブン)でしょう!」などとのたまう、世代の中では変わり者です。
とはいえ、親に強請って買ってもらった『ウルトラ怪獣図鑑』なるものを熟読していた幼少期のむつき少年は、他のウルトラマンの存在を知って見て見ぬふりをするわけもありません。
当然、気に入った怪獣が登場する回をレンタルして様々なウルトラマンを視聴していました
(子供の財力では数少ないレンタルしか許されず、穴あきで視聴していたことをご容赦ください)。
そんなわけでウルトラマンAも他のウルトラマン同様、一部の話のみ視聴したわけですが…
見たのは幸か不幸か、Aでも特に残酷な3話収録の1巻と、7話8話が収録された3巻のビデオでした。
幼きむつき少年には、残酷描写の刺激が強すぎた!
まずは1巻。なにより3話の、バキシムによる優しい老夫婦の殺人描写!!
3巻のドラゴリーVSムルチも立派なトラウマものです。綺麗な女性がメトロン星人に出会ってしまって殺されるのも怖かったし、妖星ゴランの接近によって常に暗い雰囲気になっていたのも怖かった…。
同じビデオに収録されていたガマスは別に怖くなかったけど、カメラマンの女性には腹が立ったことをよく覚えています(当時はビデオ1つにつき3話の収録でした)。
そんなこんなで完全にトラウマ認定されたウルトラマンA。
以降、むつき少年に嫌厭されるようになってしまいました。
しかし年月は過ぎ、ついぞむつき少年は社会人。
そして世代を直撃したウルトラマンティガが、満を持してサブスク配信が決定!
早速、『TUBURAYA IMAGINATION』に入会!!
でも通常会員ではティガは8話までしか見れない!!
ギランボは好きだけど全然物足りない!!
せっかく入会したわけだし何かウルトラ作品が見たい!!
そこで「いつか見よう、見よう」と思っていた昭和ウルトラマンを、満を持して視聴しようと思い至りました。
当然、真っ先に候補に挙がったのは初代マンとセブンです。
しかしマンとセブンは既に全話を視聴していました。加えて「帰ってきた」もAmazonプライムにて配信されていた際に視聴を完了しています。となると次に視聴するべきは…
Aでしょ!
子供の頃に受けたトラウマも、今ならきっと大丈夫なはずです。
こうして僕はウルトラマンAの視聴を決定しました。
やはり序盤は暗い印象を受けましたが…これがなかなか面白い!
そんなわけで書きなぐりました、ウルトラマンA個人的名作回9選。
よろしければ見ていってください。
第7話 怪獣対超獣対宇宙人
第8話 太陽の命 エースの命
登場超獣:ドラゴリー
登場怪獣:メトロン星人Jr、ムルチ
冒頭で少しばかり語った、トラウマ度トップクラスの7話8話がトップにランクインという結果になりました。
思い出補正もあるかもしれないですが、やはりAの中でも圧倒的に展開が熱いですね。
妖星ゴラン。激突されたら地球が危ないヤバイ隕石です。これが地球に向かっていたため、TACは迎撃ミサイル「マリヤ1号」で迎撃しようとします。そんなとき、TACの打ち上げ基地にメトロン星人(Jr.)が出現。マリヤ1号もろとも、基地は破壊されてしまいます。
このとき山中隊員はフィアンセであるマヤを炎上するミサイル基地から助け出すのですが、彼女は実は死亡しており、メトロン星人が成りすましていました。
妖星ゴランを迎え撃つために新たなミサイル「マリヤ2号」の開発を急ぐ中、メトロン星人はマリヤ2号を破壊しようと暗躍し、TACを攻撃。しかし北斗らに正体がバレてしまったため、巨大化。ヤプールの指示によって登場したドラゴリーと共にマリヤ2号を襲います。
これを防ぐため、北斗と南はAに変身。しかし2体1では状況が悪すぎました。そんなAに追い打ちをかけるように、今度は怪獣ムルチまでもが復活。3対1という絶望的な状況に陥ってしまいます。
ムルチはドラゴリーによって屠られる(最大のトラウマシーン)も、状況打破のため、北斗の意思でエースバリアを発動。ドラゴリーとメトロン星人を次元の狭間へ封じ込め、退けることに成功しました。しかし大技・エースバリアの使用によって、南夕子が倒れてしまいます。
こうしてマリヤ2号の建造が急がれる中、眠っているメトロン星人が発見されました。フィアンセの仇を打ちたい山中隊員は、「眠らせておけ」という隊長命令を無視してメトロン星人を攻撃。これによってみすみすメトロン星人を起こしてしまうことになってしまいます。
妖星ゴランの接近によって絶望的な状況の中、発射寸前のマリヤ2号の前に再びドラゴリーとメトロン星人が登場。北斗は瀕死の南を連れて戦いに赴き、Aとして超獣と宇宙人に挑むことを決意します。
この回はA初の2話分割構成でありながら、非常にクオリティの高い回となりました。
個人的に大きなポイントとしては
- 変身者が二人であるため、片方の不調がウルトラマンの不調に響くという展開(二人で変身という設定を上手に生かしていました)
- 着々と迫る妖星ゴランによる地球の危機という緊迫感
- 強い超獣のみならず、宇宙人と怪獣まで出現する絶望感
- ウルトラ兄弟の客演なし(どうでもいいときは助けてくれるのに)
- メトロン星人によってTAC基地が攻撃され、死者多数(防衛チームも危機)
特に二人変身を生かしていた部分が最大の評価ポイントであるわけですが、これに加えてメトロン星人が山中隊員の婚約者を殺していたという衝撃の展開も相まって、これだけのピンチを乗り切れるのか、という不安がひたすら続きます。
こんなの、よほど脚本が下手じゃない限り面白くならないわけがない!
しかもこのとき脚本を執筆していたのは、歴代のウルトラシリーズで活躍する市川森一氏や上原正三氏と来ています。これはもう約束された勝利の回ですよ。
ウルトラマンのゴモラ登場回「怪獣殿下」や、セブンのキングジョー登場回「ウルトラ警備隊西へ」も、ウルトラ戦士の敗北によってかなりの臨場感がある回でしたが、この回はそれ以上に臨場感に溢れた展開となっていました。「帰ってきた」も2話構成回は臨場感に溢れる回が多い印象ですが、最終回でもないのに、防衛チームが直接攻撃されて大ピンチという描写は(記憶には)なかったかと思います。
映画でもこんなにピンチになることはないんじゃない?と思うほどの危機の連続。しかもウルトラ兄弟も助けてはくれません(一人でもなんとかできそうなピンチのときはチョロっと助けてくれたりするのに)。
そのため最後の激闘はシンプルに胸が熱くなりました。
また、今回も山中隊員含め他の隊員たちは、北斗が「マヤがメトロンである」と発言するも信じません。それどころか、山中隊員に謝れと全員からバッシングを受ける始末。
とはいえ、そこは「信じて下さい!本当なんです!」で有名なウルトラマンA。
今回ばかりは自分の愛する婚約者が敵の宇宙人だと疑われているわけですから、山中隊員の気持ちもよくわかるというものです。
第52話 明日のエースは君だ!
登場超獣:ジャンボキング、ヤプール
登場宇宙人:サイモン星人
ご存じAの最終回。この回を見たことがある人には、もはや語ることはないとは思いますが、僕が語りたいので一方的に語らせていただきます。
簡単なあらすじを述べると、宇宙からサイモン星人とヤプールの円盤らしきものが戦い、サイモン星人の円盤が撃墜されることになりました。これによってTACが出動したところ、ウルトラ兄弟に憧れる子供たちが「宇宙人だから」という理由でサイモン星人を虐めているところに北斗が遭遇します。
これを見た北斗は「ウルトラ兄弟は弱いもの虐めはしない。弱いものの味方だ!」と子供たちを烈しく叱咤。
ウルトラ兄弟ならば――その言葉に子供たちの純真な心は動かされ、サイモン星人の味方をすることになります。
ところが現れた最強の合体怪獣・ジャンボキング。ヤプールに操られたこの超獣は、少年たちの街を攻撃し、「サイモン星人を渡さなければこの街を破壊する」と、サイモン星人の引き渡しを要求しました。
しかし子供たちはこれを断固拒否。
勇気を出してサイモン星人を守ろうとします。
北斗も彼らと共にサイモン星人を守ろうとしますが…
実はジャンボキングを操るヤプールは、サイモン星人だったことが発覚。
ヤプールは子供達には聞こえないよう、テレパシーで北斗だけに語りかけます。
その目的は「人間の子供から優しさを奪い、ウルトラマンAを地上から抹殺すること」。
Aを抹殺できるかどうかは別の話にしても、子供たちから優しさを奪うという一点において、これ以上に相応しい作戦はないでしょう。
最終的に子供たちの前でサイモン星人を撃ち殺した北斗は、自分もテレパシーが使える宇宙人であることを証明するために、子供たちの前でAへと変身し、最後の戦いに挑むことになりました。
子供たちの前でサイモン星人を撃ち殺す以外に、何かあり方があったのではないかとは思います。ウルトラマンなら無抵抗な敵を撃ち殺していいのか、という事も思いました。
しかし、地球を去る前にAが残した「優しさを失わないでくれ。それが私の最後の願いだ」という言葉は、胸に染みますね。
人を信じることは難しい。だが、それでも信じてほしい。そんな自分の気持ちを子供たちに押し付けるのではなく、優しくあることを『願う』というところが、個人的に大きなポイントでした。
ただ「ウルトラマンが言うのだから」と自身の主張を押し付けるのではなく、「願い」として、あくまで主導権は子供たちに与えているのです。
主役はウルトラマンではなく、これからを生きる君たちである――。
制作側のそういった気持ちに優しく包まれるようにして、Aは最後の主題歌と共に終わりを迎えます。
最終回として極めて完成度の高く、そして一本の作品としても非常に深みのある回でした。
余談ですが、南夕子が好きな僕には、最後に隊員たちが紹介されていく中、北斗星司と共に南夕子が紹介されていたところがめちゃくちゃポイント高いです。
ただ最終回という点に着眼した際に浮上する、唯一の不満を言わせてください。
ダン少年と梶隊員は?
第48話 ベロクロンの復讐
登場超獣:ベロクロン二世、女ヤプール
超絶簡単なあらすじです。
歯を痛めた北斗は竜隊長に「許可するから仕事中に歯医者行ってこい」との命令を受け、Q歯科医院という歯科医にかかることになりました。
しかし実はその歯科医はヤプールの残党の一人、「女ヤプール」だった。
彼女によって幻覚を魅せられ、北斗は街中で銃を乱射。「超獣がいたんです!」相も変わらずTAC隊員たちに信用されない北斗ですが、なんやかんやで幻覚は解け、ベロクロン二世を倒して大団円。
…かと思いきや、最後の最後で女ヤプールは北斗に対して恨み言を残して消えていく。
「勝ったものは、負けたものの恨みと怨念を背負って生きていくのだ」
これは大変後味が悪い!!
しかし勝負がついていることを知りながら、恨みと怨念によって北斗に戦いを挑んだ女ヤプール。
これはまさに戦いの宿命で、争いの本質の一つでもありますね。
歴代のウルトラマンではシリーズを通して登場する幹部敵キャラクターがいなかっただけに、Aとヤプールの関係があったからこそ生まれた名作回であると言えるでしょう。
また、北斗が第1話において自身を殺した相手であるベロクロンに対してトラウマのような感情を抱いていたところも人間味が感じられて個人的に高評価です。
唯一不満があるとすれば…
ベロクロン劣化してない?
第28話 さようなら夕子よ、月の妹よ
登場怪獣:ルナチクス
Aの中では大変有名な、南夕子の離脱回です。
僕は南夕子が大好きなので、「夕子がいなくなるから見たくない…」と思いながらAを順に見ていました。しかしそのときはいつか来るものです。
「ついに来た…。だけど夕子離脱なんて認めないからな!絶対にこき下ろしてやる!」
そんな気持ちでいよいよ視聴しました。28話。
絶対にこき下ろしてやる!そんなつもりで見たはずなのですが…
思いのほかクオリティが高かったから文句を付けられなかったことが至極残念でなりません。
唐突に現れた月星人という設定。
そして北斗一人でも変身できる謎設定。
リングを渡しても生きている夕子(夕子もベロクロンに殺されたんじゃなかったの?)。
ツッコミどころは多々あります。
しかし意外だったのは、他の回と比較して時間配分が明らかに違ったことでした。
普段よりもハイペースで話が進み、本編中盤では、もう目玉の戦闘を終えてルナチクスを撃破。
その代わりに、OPを含めて25分ある物語のうち、最後の10分以上をタップリと夕子の別れに使っていたのです。OP含めた25分のうち10分と言えば、ほとんど半分近い量でした。
これだけの時間をかけて北斗と夕子を語らせ、TAC隊員との別れを描かれてしまっては、如何にこき下ろそうとしていた僕でも「夕子の離脱が雑!」なんて不満をぶつけられなくなってしまいました。
「復讐するべき相手を倒したから月に帰ります」というのは少々乱雑なところもありましたが、大人の事情で仕方がないところがあったのでしょう。
それにしても、Aでは
- 北斗が特攻
- 敵に捕まったりしてピンチ
- 夕子がアローとかで特攻or人間離れした20mほどの超絶ジャンプ
- ウルトラタッチ
という流れが多々見られましたね。
この回以降、夕子はクリスマスなどのゲスト回で特別な力を発揮しています。
なるほど。月星人ということであれば、彼女の人間離れした20m超絶ジャンプにも頷けるというものです(北斗については触れない)。
第36話 この超獣10,000ホーン?
登場超獣:サウンドギラー
正直に申しますと、「夕子が出てこないAなんて」という気持ちで、29話以降のAは総てこき下ろすくらいの気持ちで見ておりました。そんな中でジワリと面白さをにじませていたのがこの回です。
簡単に説明すると、不良がバイクで騒音たてまくるので、騒音に反応する超獣・サウンドギラーが出現。人に迷惑をかけ続ける不良たちにジワジワとヘイトが溜まるけれども、最終的に改心するというお話。
余りにヘイトが溜まるので、もうぶちのめしちゃえよ北斗!と何回思ったか知れません。
途中でガチ喧嘩してましたけども。
子供たちと仲良くなりたいけど、素直になれない不良たちは、危機になると子供たちを助けます。そこは少々ご都合主義なところはあると感じますけれど、意外といい話だったと思えます。
Aにしては珍しい「人を信じる話」ですが、北斗の「人を信じる心」と「優しさを失わない行動」の結果によるハッピーエンドであったと言えるでしょう。最終回を知った後で思い返すと、Aのテーマに寄り添った、かなりいい回だったんじゃないかと感じました。
第6話 変身超獣の謎を追え!
登場超獣:ブロッケン
お父さんが怪獣になってしまう話です。
ウルトラではありふれた内容でしたが、とにかくお父さんが死ななくてよかったので僕は高評価です。
ウルトラでは宇宙で地球外生命体に絡まれたり、何かしらの異常が起きて変異した人間/怪獣には、碌な結末が容易されていないことが多いです。
※初代のジャミラ、ティガのリガトロンなどがその筆頭
にも関わらず、この話ではきちんとお父さんが人間として帰ってくるのです。
個人的には不穏な雰囲気を終始感じていたので、最後に帰ってきてくれたのが嬉しかったですね。マニアの皆さんからしたら「そこがヌルいのだ」と仰られるかもしれませんが、僕は好きです。
また、ショッカーの改造手術のように宇宙怪獣と地球生物を合体させた超獣であったことも、ヤプールという固定ボスの恐怖を煽るのに一役買っていた印象がありました。
あとはなにより、ブロッケンのデザインが好きなので!
第3話 燃えろ!超獣地獄
登場超獣:バキシム
トラウマ回その1です。
ドラゴリーもなかなかやってくれましたが、それ以上にバキシムのせいでむつき少年は「ウルトラマンAは怖い作品だ」と印象付け、嫌厭するようになりました。
これまで人間に化けて殺人を行うという宇宙人は、少なくとも私が幼少期に穴くい虫で見てきたウルトラシリーズの中では、存在しませんでした(レオとかにはいそうですが)。
そんな中で見てしまったこの回はどうしようもなくトラウマになりました。
ちなみに当時、僕は仮面ライダーV3における『神回』で有名な、1号2号が帰ってくる回ですらトラウマになっています。人間が狼人間みたいになるのが怖かったです。しかもデストロンに命令されているとはいえ、V3たちを殺そうとするのも怖かったです。
なおウルトラシリーズで一番のトラウマは、ハヌマーンが登場する『ウルトラ6兄弟VS怪獣軍団』でした。泥棒にコチャンが銃殺されるシーンは本当に怖かった。
僕はそういう人間の悪意だとか狂気だとか、恐ろしさのようなもので人が死ぬ場面が一番怖かったようです。
そしてこのバキシムの回では、心優しい(酒は無理やり飲ませて来るが)老人たちを、悪意のあるバキシムが子供の姿で人を殺します。
これがとにかく怖くて仕方がなかったのです。
大きくなった今は全然平気ですけど!
この話の見どころとしては、第一に特撮でしょう。
やはり富士を背景に行うバキシムVSAの姿は非常に美しい映像となっております。
バキシムのデザインも、少しふっくらとした丸みを持ちながら、頭部や腕部分は尖って、このバランスが非常にいいと思います。色合いも絶妙で、お気に入りの超獣の一体です。
また番組初期であるため、予算をたっぷり使用できるため非常に迫力がありました。
ストーリーに関しては「なんでこんな滅びかけてる村を襲ってんの?」とか「北斗だけじゃなくて夕子もTACのみんなに信じてもらえないんだね」という感じでツッコミどころは多いので、映像美への評価がほとんどですね…。
切断技を扱うことが多いAですが、バキシムはAで最初に切断技を食らった超獣でもありますね。
第23話 逆転! ゾフィ只今参上
登場超獣:巨大ヤプール
正直に言うと、あまり好きじゃない回でした。
ヤプールの戦略とかもっと他にあっただろうとか、もっとみんな北斗信じろとか、変身雑すぎない? とか、ゾフィそこまで来たら戦いの場にも参上してよ…とかとか…
言いたいことや不満は山ほどあります。
だけどただ一つ、ウルトラマンAという作品の中で僕が非常に重要だと思っている、北斗と南の絆についての描写が大変すばらしい回でもありました。
なのでベスト9にランクインさせていただきたいと存じます。
この話でも、例にもよって北斗の話は誰も信じてくれませんでした。山中隊員はもちろん、隊長までもが北斗の話を信じていない様子。この回はAの中でも、おそらく最も烈しく北斗が「本当なんです!信じて下さい!」を行った回であるといえるでしょう。
異次元人という未知の脅威を前に、互いに背中を預け合う関係であるにもかかわらず、このレベルの信頼関係は地獄でしょ…とは思いましたが、今は何も言うまい。
このとき、ただ一人だけ北斗を信じる仲間がいたからです。
それは誰か?
言うまでもないでしょうが、敢えて言います。
南夕子です。
このとき夕子は、北斗から信じる理由を問われたとき、論理的な返答を返すことはできませんでした。
それでも彼女は「私は信じるわ。貴方の話」と北斗に信頼を示します。
そんな夕子に北斗は「同情はまっぴらだ」と突き放してしまう。
そこで夕子はとある昔話を語り始めました。
「小さい頃に人魂を見たことがあるわ。恐ろしくて家族に話しても、誰も信じてもらえなかった。だけど翌日、隣のおじいさんが亡くなっていたことがわかったの。私が見た人魂は本当だったのね…」
それ以上、夕子が何を言うこともありませんでした。
しかしこのエピソードを語ることで、彼女は「貴方を信じる」という言葉はなくとも、何百倍も強い「信じている」という気持ちを表現していました。
北斗はただ「ありがとう。君の気持ち嬉しいよ」と彼女に言葉を返すだけ…。
これこそがウルトラの力で繋がれた二人の絆であると感じましたし、二人でウルトラマンに変身するという本作だからこそ描ける男女の関係であるといえるでしょう。男同士、女同士では、このような描写はできなかったかと思います。
こうした信頼関係を僅かな会話の中で表現した脚本には、思わず感動してしまいました。
この回はヤプールとの大決戦の回であり、Aという作品にとっても一つの分岐点となるべき回でした。
そんな回で二人の強い絆を表現する描写が行われたことが、とても素晴らしいことに思います。
また余談ですが、作中、山中隊員が北斗に先輩らしい優しさを見せる貴重な回でもありますよ。
ウルトラマンA総評/まとめ
Aは「帰ってきた」が期待されてしまったせいで、いろいろと不遇な印象があります。
制作者の一人が「ヒーローになり損ねた悲劇の神」と述べていたことがあるそうですが、「成程」と思わざるを得ない部分もありました。
その最大の理由はやはり、南夕子の途中離脱です。
Aは男女の合体変身という新機軸を打ち出しましたが、過去作と比較すると視聴率がふるわなかった。そのため行われたのが「テコ入れ」。男女の変身から男性の単体変身への移行とされています。
なお、南夕子の途中離脱については諸説あるため「テコ入れ」だったかどうかの事実は不明ですが、南夕子が離脱したことに代わりありません。このことは僕としては、非常に残念な点となりました。
南夕子について
「本当です!信じて下さい!」
もともとウルトラマンAという作品では、人が信用される描写が少ないように感じます。
北斗が何度「超獣を見た」と言っても、
「そんな馬鹿な。ガハハ!」
と、TACの皆(特に山中隊員)に笑われてイマイチ相手にされません。
子供が「超獣を見た!」と証言しても、
「子供の言うことだから。ガハハ!」
と真に受けません。
しかも恐ろしいことに、真実を笑ったものたちは、北斗らが真実を言っていたと判明(実際に超獣が出現するなど)しても謝らないのです。
そこは謝ってよ! じゃないと信頼できないよ!!
特に山中隊員!!!
ちなみにブラックサタンの登場回(第22話「復讐鬼ヤプール」)では、山中隊員が真実を見ておきながら、全員が「そんな馬鹿な」と一笑に付します。
これまで散々北斗に対して厳しい言葉を投げかけていた山中隊員には「いつもやってたし仕方ないよね」という思いはありますが、防衛チームとしてはもうちょっと考えることがあるんじゃないんですか…。
TACの中で唯一、竜隊長だけは北斗や子供たちの言葉を一蹴せず、比較的聞き入れてはくれます。ヒッポリト星人の回のように「とりあえず信用はしないけど、頭に置いておいてあげるね」みたいな回もありました。
しかしその竜隊長も、やはり若い北斗に「徹夜で疲れているんだろう。休暇を取るように」とか言うことがあるわけです。
そんな人に信じてもらえないことが当然のような世界観。なんだかギスギスしている雰囲気を感じる防衛チーム内。そして迫るヤプール。
右は敵、左は味方のハズだけど信用してもらえない。
Aの作中、北斗の足場は終始不安定なままという印象を受けていました。
しかしそんな北斗を絶対的に信頼している存在が一人だけありました。
それこそが、南夕子でした。
疑いばかりの世界で輝くヒロイン
北斗がどんなに荒唐無稽な話をしようとも、彼女だけは北斗の言葉を信じ続けていました。
もうそれだけで、ラノベとかなら間違いなくメインヒロインになり得ます。
例えば第11話「超獣は11人の女?」(登場超獣:ユニタング)
敵に操られ、へらへらした様子で女の子のお尻を追いかける北斗を見て、TACのメンバーは皆「こいつもうダメだ」という視線を向けました。山中隊員はもちろん「いい加減にしろ北斗!」とキレました。
しかし夕子だけは「何かがある」と、最後まで北斗を信じ続けていました。
また第23話では、ランキング9位で上述した通り、彼女の信頼が北斗の心を救っていました。
つまり何が言いたいかというと、南夕子という存在がなければTACは人を信じることをしようとしない防衛チームという印象を受けてしまうということです。
しかしそんな南夕子という作品の良心は途中離脱。
以降、北斗は一人でウルトラマンに変身をすることになり、なによりTACの皆からの信頼を得られず孤立してしまうことが多くなります。
夕子が離脱した直後、夕子の代わりにウルトラ6番目の弟である「ダン」という少年が登場するわけですが、彼は南夕子にはなり得ませんでした。
勿論、誰か一人でも信頼してくれる人がいるというのは北斗にとって心強いことでしょう。だけどダンはまだ小学生で、精神的に未熟。
加えてダン自身も、「超獣が出た」と言っても信じてもらえない立場側の人間でした。
(それを言ったら夕子も第3話で「黄色い帽子の少年と超獣を見た」と言っても、TACの誰にも信じてもらえなかったんですけど)
それにダン少年は、六番目の兄弟と自称はしていても、TACに入隊しているわけではないし、なによりも本当のウルトラマンではありません。
共に地球を守ってきた南夕子との絆と比較すると、どうしても彼女以上の繋がりを感じることができないのです。少なくとも、僕はそう感じてしまいました。
そのため夕子の離脱以降、北斗の孤立が僕には特に目立って見えてしまったのです。
中でも32話、コオクスの回はほんとに見ていて辛い…。
逆に35話では北斗が子供を疑うという、これまでとは逆転した事態になりました。
このときばかりは子供と同年代のダン少年が活躍。相手のケアを行うという役割をこなしていました。
しかし僕は、このとき南夕子が居れば、北斗にどのような言葉を投げかけただろうか…と、想わずには居られませんでした。
ルナチクスによって夕子が離脱して以降、心のどこかで何かが欠けたような気持ちが残り続けました。
それだけ僕の中では、Aという作品に南夕子は必要不可欠だったんですね。
北斗と南の関係性
北斗は女性関係に疎いため、夕子のことは「仲間」としてしか見ていなかった様子です。
実際、ウルトラマンメビウスの客演回でも「大切な仲間」として描写されていました。
しかし夕子はおそらく、仲間としては勿論のこと、北斗のことを異性として意識していたのではないでしょうか。
5話では北斗を楽しそうに買い物に連れまわす描写が見られますし、
22話では「デートに誘ってくれたことなんて、一度だってないじゃない?」
といった積極的なセリフも見受けられました。
22話のちょっといじけた夕子、マジで可愛すぎるんですわ。
可愛くないですか??
また、夕子が離脱しなかった場合の最終回の構想では「最終決戦の後、北斗と夕子が結婚し、北海道の牧場とかでゆっくり過ごす」というものがあったそうです。
それが叶わなかったことが非常に惜しまれます…。
「人を信じることをやめないでくれ」
Aと言えばこのセリフ。A本編を見たことがなくても、メビウスで聞いたことがあるからなんとなく知っている、という人もいるでしょう。かくいう僕も、つい最近Aを見終わるまでは、ネットやメビウスで見聞きしたことがあるAの名言、くらいに思っていました。
より具体的に言うと、最終回だからウルトラの星に帰る前に、「とりあえずなんか言って帰るか。帰マン兄さんもウルトラ五つの誓いとか言ってたし」みたいな気持ちで置き土産にして帰ったんだね、くらいに思っていたわけです。
しかしAという作品は先にも述べた通り、とにかく信頼されない世界です。
死地で背中を預け合う戦友であろうとも、少しでも不可思議なことを言えば、まずは「何を戯けたことを」と頭ごなしに否定するところから始まります。
どんな世紀末だよ、と視聴者(僕)は思うわけですが、しかしこれが、意外と最後の最後で生きましたね。
最終回については上記で説明しているため詳細は省きますが、文字通りAだからこそできた『最終回』であり、『願い』でした。
主題歌を背景に、地球を去るAの後を追っていく子供たちの姿には、制作側の『願い』が込められていたようにも感じます。これも最終回のときに言いましたね。
まとめ
Aといえばダブル変身!南夕子!!(あとトラウマ)
幼少の頃から僕のAへの印象変わりません。
とはいえAには、南夕子が不在でありながらも、良いと感じる回はありました。
サウンドギラー。ベロクロン二世。そして最終回。ランキング外ですが、ウルトラの父が復活した38話や、北斗が山中隊員と数少ない共闘を行った50話もお気に入りです。
いろいろと思うように行かなかった部分が多く、夕子の離脱や路線の変更などで悩まされたであろう作品。
当時のスタッフたちも後に「Aは大変だった」という旨の発言をされていると聞きます。
しかしながら、「人を信じることの難しさ」「人に信じてもらうことの難しさ」そして「人を信じることの大切さ」というものを、この作品を通じて教えられたような気がしました。
結果的にそうなった、と言えばそれだけのことかもしれません。
人を信じるのは当たり前のことだ、と言えばそれだけのことでしょう。
ですが、僕は年を経るごとに自身の価値観が変わっていくことを感じていました。
少年の頃のことを思い出すことはできても、少年の頃と同じ考え方をすることは難しい。ほぼ不可能と言っていいでしょう。
人間ですから、どうしても綺麗なままでは居られないこともありました。正義の味方に顔向けができないようなこともしていたと思います。
子供ではない大人になってしまった今、「優しさを失わないでくれ」という言葉だけは、まるで子供の頃に戻ったかのように胸に響きました。
この言葉で締めくくられたウルトラマンAという作品を、僕は生涯忘れることはないでしょう。
もし誰かに優しくしたいと思ったとき、Aはきっと僕の背中を押すでしょう。
そして誰かに優しくできたとき…。
そのときには、遠く輝く一番星の横に、強く光り輝くウルトラの星が見えることでしょう。
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